余った食品を安く売るより、廃棄した方が企業は儲かる
日本では年間643万トンの食品ロスが生じていると言われています。
世界中で飢餓で苦しむ人々が多くいる中で、大量の食品ロスを減らす取り組みが盛んにおこなわれています。
賞味期限が迫った商品や、賞味期限が切れた商品を安く売りさばいたり、味や中身に問題はないものの商品として店頭に並べることが躊躇される訳アリ食品を専門に扱ったサイトもあります。
このように食品ロスを減らすために、従来であれば捨てられていたような、正規の商品として扱えない商品を安く売ることは一見素晴らしい取り組みのように思えます。
形が不ぞろいのクッキーや足の折れたカになど、味に問題はない食品を安く購入できれば、多くの消費者は喜ぶでしょう。
捨てるはずであった訳アリ商品を安く売ることができれば、企業も喜ぶような気がします。
しかし話はそれほど単純ではないのです。
安い訳アリ商品は、正規の商品の売り上げに影響
そもそも、市場におけるモノの値段は、基本的に需要と供給で決まることは常識です。
通常、市場における需要量に相当する商品量しか、出荷されないのが市場の掟です。
売れない商品を大量に店頭に並べても無意味ですので、売れる分だけ商品は市場に出回ります。
もちろん、商品を製造したり、流通したりする過程で、多少の不良品生じることがあります。
また日々変動する市場の需要量を正確に予測することは難しいので、売れ残りや過剰な在庫を抱えてしまうこともあるでしょう。
むしろ、多少のロスを見越したうえで商品を製造出荷するのが普通です。
つまり、不良品が生じることや、多少の売れ残りが生じることは初めから織り込み済みの上で、それでも利益がでるように価格設定をしているのです。
それにもかかわらず、売れ残り商品や訳アリ商品を無理やり安く販売しようとすると一体何が起こるのでしょうか。
正規の商品の売り上げが下がるのです。
訳アリ商品や賞味期限が切れそうな見切り品が、安く販売されていれば、安い方から買おうとする消費者が大量に発生します。
その結果、適正な値段設定がされている正規品の売り上げが落ち、企業業績を悪化させてしまうことにも繋がってしまうのです。
安くなったからといって沢山売れるとは限らない
ある商品が市場で売れる量には限界があります。
大根が1本10円だったとしても、大根ばかり食べ続ける人は中々いないはずです。
炊飯器が家に何台もあっても邪魔なだけです。
私たちは、値段が安くなっても必要以上のモノはいらないものです。
そもそも市場に出回っている商品の値段は、世の中の需要量と生産コストを考慮して、利益のとれる水準に設定されているはずです。
それにもかかわらず、食品ロスの削減の名のもとに、余った商品を市場で安く売ろうとすることで、わざわざ高い正規品を買おうとする人が減少することになります。
見切り品や訳アリ商品を無理に安く売ろうとするのではなく、正規の値段で売れなければ破棄する方が、結果的に企業業績は良くなることも十分あり得ます。
食品ロス対策は代替材の供給だ
食品ロスの対策を少し経済学的に考えてみよう。
いま日本には様々なお酒が売られています。ビールに、ハイボール、レモンサワーやワインカクテルなどなど、お酒の好みは様々です。
もし数あるお酒の中で、ビールだけが値上げされたら、ハイボールの売り上げはどうなるでしょうか?
今までビールの愛好家だった人々の一部が、ビールをやめてハイボールを買うようになるかもしれません。
逆に、ビールが値下げされると、今までハイボールの愛好家だった人が、ビールに流れるかもしれません。
このようにどちらかの値段が上がった場合、もう一方の需要量が増えるような関係の商品を代替材と言います。
ビールとハイボールは代替材で、お互いに市場の需要を奪い合っているのです。
さて、食品ロス対策において、賞味期限が迫った(あるいは切れた)見切り品や訳アリ商品を仕入れて安く売りさばく店舗があったとしましょう。
既に述べたように、少々品質が劣っていても安く買えるならそっちの方がいいと思う消費者が多くいるはずです。
その結果、正規の値段で販売している商品の需要量は下がってしまい、最悪企業業績が悪化してしまうことになるでしょう。
つまり、コンビニで定価で売られている商品と、賞味期限が迫って半額で売られている商品は、経済学的に言えば代替品ということになるのです。
それでも食品ロス対策は必要
それでも食品ロス対策は一企業の利益最大化のためだけに軽んじられていいものではありません。
一見経済にマイナスにみえる改革でも、その改革自体を新たなビジネスに繋げることもできます。
従来捨てられていた見切り品を集めて、安く販売することで、新たな需要が開拓され、正規品の売り上げは落とさずに食品ロスを減らすこともできるかもしれません。
正規品が売られている土俵とは、別の土俵で見切り品を売ることで、両者の競合を避けることもできます。
商売の基本は利益最大化と言えども、食べ物を大量に廃棄するのは、純粋にもったいないので、どうにかしたいと考えるのが人の心なのです。