■事案の概要
Aは,Bが代表取締役であるC社に対し金銭債権(甲債権)を有し,Bに対し甲債権の連帯保証債務履行請求権(乙債権)を有していた。
また,Aは,Bに対しBの依頼で立て替えた費用の求償債権(丙債権)を有していた。
BとDは,他の債権者を害することを知りながら,B所有の不動産をDに贈与する契約を締結し,所有権移転登記をした。
Aは,当該贈与が詐害行為に当たるとして,Dに対し贈与契約の取消しと所有権移転登記の抹消を請求した。
これに対して,Dは,甲債権及び丙債権の消滅時効を援用した。
■問題の所在
詐害行為の受益者は,詐害行為取消権者の債権の消滅時効を援用することができるか。
■結論
肯定
■判旨
民法145条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は,権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。
民法第145条(時効の援用) |
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。 |
詐害行為の受益者は,詐害行為取消権行使の直接の相手方とされている上,これが行使されると債権者との間で詐害行為が取り消され,同行為によって得ていた利益を失う関係にある
同時に、詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債権が消滅すればその利益喪失を免れることができる地位にある。
したがって、詐害行為の受益者は、その債権者の債権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、右債権について消滅時効を援用することができるものと解するのが相当である。