民法

親権者が子の不動産を物上保証に供する行為と法定代理権の濫用 (最判平4.12.10)

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■事案の概要
未成年者Aは、父Cの死亡により甲土地を遺産分割協議に基づいて取得した。遺産分割に基づく登記手続はAの親権者である母Bの依頼によりD(亡Cの弟)が代行し、Dは諸事にわたってABの面倒を見ていた。

その後、Bは、Dが経営するE会社の債務の担保のために、Aの法定代理人として甲土地にFを根抵当権者とする根抵当権を設定した。

成年に達したAは、当該根抵当権の被担保債権はDが経営するE会社の事業資金であり、Aの生活費等、Aの利益のために使用されたものではなく、かつ、Bはそのことを知っていることから、Bがした根抵当権設定契約は法定代理権の濫用に当たるとしてFに対して根抵当権設定契約の無効を主張した。

■問題の所在
(1) 法定代理権の濫用に該当する場合
(2) 親権者が法定代理権を濫用した場合の効果

■結論
(1)親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がある場合に限られる(本件のBの行為は、法定代理権の濫用に該当しない)。
(2)民法93条1項ただし書の類推適用により無効となる。

第93条 (心裡留保)
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


■判旨
親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法824条)。


民法第824条(財産の管理及び代表)
 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。


そのため、親権者がその権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方がその濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法93条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばない。

しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。

そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、(必ずしも)利益相反行為に当たらないものである。


それが、子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできない。
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