物権的請求権とは、物権の円満な支配状態が妨害され、またはそのおそれのある場合に、あるべき状態の回復、または妨害の予防を求める請求権である。
■物権的請求権の根拠
所有権などの本権に基づく物権的請求権に関しては、明文化された明確な根拠がないが、以下の観点から物権の物権の性質上当然に認められると考えられる。
①民法第202条1項の「本権の訴え」という文言が使用されていることから考えてみよう。ここで言う「本権」とは占有権に対比して使われていることから所有権のことだと解される。だとすれば、本条文は所有権に基づく物権的請求権を当然想定していると考えられる。
民法第202条(本権の訴えとの関係)
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1 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
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2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
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②占有権において民法197~201条で、占有訴権が認められているの関係上、より強力な本権である物権には、当然に物権的請求権が認められてしかるべきである。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。
3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
このことを『自力救済が禁止』というが、本原則のもとで物の直接的支配を全うするには、当然に物権的請求権が必要である。
■物権的請求権の法的性質
物権的諸求権の法的性質をどのように捉えるかについては、いくつかの説がある。
A 物権的効力説
物権的請求権は、物権の作用もしくは効力にすぎないので、独立の権利ではないとする説。
B 準債権説
C 独立請求権説
Q 侵害除去の請求につき、債務不履行や弁済の規定などの債権に関する規定を適用できるか。
この点、物権的請求権を物権から独立した純粋な債権とするB説(準債権説)からは当然肯定される。さらに、他説も準用ないしを類推適用を認める。
Q 物権的請求権を物権
と切り離して移転しうるか。物権と物権的請求権の牽連性を基本とするA説とC説からは否定されが、両者を別個独立のものとするB説からは肯定されうる。
判例は、『物権を有する者でなければ物権的請求権を有しえないし、物権を有する者がその物権を他人に譲渡したときは、その者は物権的諸求権を失う(大判昭3.11.8)』とし物権的請求権のみを物権と切り離して移転できないとの立場をとっている。
Q 物権的謝求権は消減時効にかかるか。
この点、
物権と物権的請求権の牽連性を基本とするA説・C説からは物権的論求権が物権と独立して消滅時効にかかるということはありえないことになる(判例.通説)。もっとも、C説に立ちながらも、ドイツ民法が物権的求権の消減時効を認めていることや、我が国の相続回復請求権が時効にかかること(民法第884条)を理由に、物権的求権も特定の妨害者に対する関係では消滅時効にかかるとする説もある。
他方、両者を別個独立のものとするB説に立つと、理論上は物権的請求権か独立して消減時効にかかるということになる。
■物権的返還請求権
たとえば、A所有の本がBに盗まれ、現在Bがその本を占有する場合は、AはBに対して、所有権に基づく返還請求権を根拠に「その本を返してくれ」と言える。
♦請求権者:占有を失った物権者
占有回収の訴えと異なり、詐取・遺失の場合も除外されない
例えば賃借人のように、所有者以外の第三者に占有権限がある場合でも、所物者は直接自分に対して明しを請求できる(最判昭41.10.21)
♦相手方:所有者に対する係で、占有権限を有しないのに占有しているすべての者
・占有回収の訴えと異なり、善意の転得者に対しても行使できる
・相手方は現に目的物を占有している者でなければならない
・占有補助者・占有機関に対しては行使できない
■物権的妨害排除請求権
たとえば、A所有の土地の上に、隣の高台にあるBの塀が崩れ落ちてきた場合に、AはBに対して、所有権に基づく妨害除請求権を根拠に「私の土地の上に落ちてきた塀をとかしてくれ」と言える。
◆請求権者:当該物権の完全な実現を妨げられている者
◆相手方:請求権者の保有する物権につき、現に妨害状を生じさせている者
◆差止請求:物権的請求権は、しばしば差止請求の法的根拠とされてきた。現在の判例は、公害問題にについては、人格権を根拠として妨害排除及び妨害予防請求を認めている。日照被害の差し止めについては、「上地・建物の利用に結びついた、物権的求権と人格権の複合的なもの」としている。環境権については、判例は認めていない。
■物権的妨害予防請求権
たとえば、Bが自己所有の山林の土砂を採取したことにより、将来、隣地にあるA所有の土地に山林が崩れる危険が高いというような場合に、AはBに対して、所行権に基づく妨害予防請求権を根拠に「山林が崩れてこないように何か対策を講してくれ」と言える。
◆請求権者:妨害されるおそれのある物権の保有者(一度妨害が生じたことは要しない)
◆相手方:将来、諸求権者の保有する物権を妨害するおそれのある者
◆請求内容:
・「木材の伐採や搬出をしない」など、単に物権の妨害になるような行為をしないこと(不作為の請求)
・「がけの損を防ぐ工事をすること」など妨害のおそれを生すを原因を除去して妨害を未然に防ぐ措置をとること(作為の請求)