憲法

教育事業への公金支出の可否(東京高裁H2.1.29)

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教育事業への公金支出の可否(東京高裁H2.1.29)

Y町では、権能なき社団である幼児教室(以下「本件教室」という)に対して同町所有の土地及び建物を無償で使用させるとともに、毎年補助金を支出した。

これに対し、Y町の住民であるXらは、本件教室に対する同町の上記助成措置は憲法89条に違反するとしてY町町長らに本件教室への土地・建物の無償貸与と助成金相当額の損害賠償額を求めて提訴した。

憲法89条

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

保護者による民主的な意思決定をもって憲法89条にいう『公の支配』に服する

本件教室の事業は『教育の事業』にあたる。

憲法89条前段「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため…これを支出し、又はその利用に供してはならない。」については、国家と宗教の分離を財政面からも確保することを目途とするものであるから、その規制は厳格に解すべきである。

しかし、同条後段「公金その他の公の財産は、…公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」に関して、教育の事業に対する支出、利用の規制については、もともと教育は、一般的には公の利益に沿うものであるから、同条前段のような厳格な規制を要するものではない。

教育の事業に対して公の財産を支出し、又は利用させるためには、その教育事業が公の支配に服することを要するが、その程度は、事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産が濫費されることを防止しうることを持って足りる。

本件教室について町の関与が予算、人事等に直接及ばないものの、本件教室の目的が幼児の健全な保育という町の方針に一致し、保護者による民主的な意思決定の方法が確保されているため、本件教室は、町の公立施設に準じた施設として、町の関与を受けているものということができる。

本件教室の事業が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され、公の財産の濫費を避けることができるものというべきであるから、保護者による民主的な意思決定をもって憲法89条にいう『公の支配』に服するものということができる。


憲法89条後段の趣旨に関する論点

憲法89条後段には、「公金その他の公の財産は、…公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」と規定されているが、この点に関して以下の3つの考え方がある。

自主性確保説

指摘事業に対する国家の干渉の排除と事業の自主性確保にその趣旨がある。 ⇒国がお金を出すと、口も出す。そうすると、また公金を支出してもらうために国のいうことをきき、事業の自主性が失われていく。そのため、はじめから国からの強い干渉がある事業にのみ公金の支出を許すとイメージすると分かりやすい。これは「公の支配」を狭く解しているとも考えられる。

公費濫用防止説

私的事業へ支出された公金の不当な利用・濫費の防止・監督にその趣旨がある。あまりに無駄遣いをしているような場合に、国が注意を促せる程度の環境があれば、公金支出ができる。そのため「公の支配」を広く解している。

中立性確保説

89条後段を政教分離の補完と捉え、私的な教育事業等は、往々にして特定の宗教的信念に基づくことがあるので、国の財政的援助によってそれらの事業に宗教的信念が浸透することを防ぐことにその趣旨がある。


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