■事案の概要
Aは、甲土地をBらと共有していたところ、相続人なくして死亡した。Cらは、特別縁故者として相続財産分与を申立て、家庭裁判所はAの持分をCらに分与する旨の審判をした。
Cらは、この審判に基づいて持分移転登記を申請したが、これを却下されたため、処分の取消しを求めて訴えを提起した。
■問題の所在
共有者の一人が相続人なくして死亡した場合、民法255条又は958条の3のどちらが優先的に適用されるか。
民法第255条(持分の放棄及び共有者の死亡) 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
民法第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与) 1 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 2 前項の請求は、第958条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
■結論
民法958条の3が優先的に適用される。
■判旨
「民法958条の3の規定」は、本来国庫に帰属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与する途を開き、右特別縁故者を保護するとともに、特別縁故者の存否にかかわらず相続財産を国庫に帰属させることの不条理を避けようとするものである。
そこには、被相続人の合理的意思を推測探究し、いわば遺贈ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているものと解される。
この場合、共有持分は法255条により当然に他の共有者に帰属し、法958条の3に基づく特別縁故者への財産分与の対象にはなりえないと解するとすれば、共有持分以外の相続財産は財産分与の対象となるのに、共有持分である相続財産は右財産分与の対象にならないことになり、同じ相続財産でありながら何故に区別して取り扱うのか合理的な理由がない。
さらに、共有持分である相続財産であっても、相続債権者や受遺者に対する弁済のため必要があるときは、相続財産管理人は、これ
を換価することができ、これを換価して弁済したのちに残った現金については特別縁故者への財産分与の対象となる。
を換価することができ、これを換価して弁済したのちに残った現金については特別縁故者への財産分与の対象となる。
それに対して、相続債権者や受遺者に対する弁済のために換価する必要がなかった共有持分である相続財産は財産分与の対象にならないということになり、不合理である。
また、被相続人の療養看護に努めた内縁の妻や事実上の養子など被相続人と特別の縁故があった者が、たまたま遺言等がされていなかったため相続財産から何らの分与をも受けえない場合にそなえて、家庭裁判所の審判による特別縁故者への財産分与の制度が設けられているにもかかわらず、相続財産が共有持分であるというだけでその分与を受けることができないというのも、いかにも不合理である。
逆に、共有持分も特別縁故者への財産分与の対象となり、分与がされなかった場合にはじめて他の共有者に帰属すると解する場合には、特別縁故者を保護することが可能となり、被相続人の意思にも合致すると思われる場合がある。
さらに、家庭裁判所における相当性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいずれに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮することが可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。
さらに、家庭裁判所における相当性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいずれに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮することが可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。
したがって、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、法958条の3の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、法255条により他の共有者に帰属することになると解すべきである。