会社法

会社の自己株式取得の落とし穴

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会社の自己株式取得


目次

自己株式の取得・保有の弊害

株式会社が自社の株式を取得することを「自己株式の取得」と呼びます。

株式には財貨性がある以上、株式の発行会社自身が自らが発行した自己株式を取得することは理論的に可能です。

しかし、自己株式の取得を無制限に許容すると、様々な弊害が生じることになります。

自己株式の取得は、資本維持の原則に反する

株式会社が株式を発行し、株主は株式を引き受ける対価として金銭等を出資しています。

そのため会社が自己株式を取得することは、会社からの資金の流失(資本金の減少)を意味し、会社の財務基盤を脅かすことになります。

自己株式の取得は、株主平等原則に反する可能性がある

会社が発行している株式の一部を取得する場合、取得の対象となった株主とそうでない株主との間で、不平等が生じる恐れがあります。

だからといって、全ての株式を会社が買い取れば、もう株式会社とは言えなくなってしまいます。

自己株式の取得は、会社支配の公正を害する

株式会社は意見の異なる多くの株主の利害を調整することで、経営の公平性が担保されているという側面があります。

しかし、不用意に会社に自己株式の取得を認めてしまうと、株主の影響を排除し、会社の経営権を担う取締役の地位強化のために悪用されてしまう恐れがあります。

例えば、会社の経営を担う取締役と意見が対立する大株主は、会社にとって不都合な株主と言えます。

そのような会社に不都合な株主を経営陣が好き放題に排除できるとすれば、株式会社の制度そのものを形骸羽化させることになってしまいます。

自己株式の取得は、株式取引の公正を害する

株式会社の株価は、市場での自由な売買によって価格形成がなされなければなりません。

売主の供給と買主の需要の均衡点が株の市場価格となりはずです。

しかし会社が自己株式の取得をすることによって株価操作やインサイダー取引が行われるおそれが生じます。

一般的に自己株式の取得が発表されるとその会社の株価は吊り上がる傾向にあります。

会社の自己株式の取得が公表される前に、その事実を知るものが株を売買する場合はインサイダー取引となるのです。

そのため会社の恣意的な自己株式取得は、株取引の公正さを害する可能性があります。


自己株式の取得・保有のメリット

自己株式の取得・保有が認めらることのメリットは、主に以下の3つがあります。

メリット①:合併、会社分割等の企業再編成に際し、合併や分割の対価として自己株式をを交付できる

会社が合併や会社分割の対価に関して、新株の発行に代えて保有する自己株式の割当てが可能です。

新株発行にともなう株主の持ち株割合の低下を防ぎながら、機動的な組織の再編成が可能となります。

新株を発行すると、発行済株式総数が増えるため、既存株主の持ち株割合が低下してしまいますが、自己株式の割当てであれば、既存株主の持ち株割合は維持されます。

その会社が発行する全体の株式数が増えると、相対的に自分の持ち分割合が低下してしまいますね。

メリット②:持合い株式の解消する際の自己株式の取得

会社は、敵対的な第三者に株式を買い占められることを嫌います。

株式の保有は株主総会での議決権を伴うものであるため、発行株式の一定数以上を保有すると、実質的にその会社の経営権を握ることになります。

敵対的な企業等に経営権を握られてしまうと、会社経営がやりにくくなるからです。

このような敵対的な第三者を排除するために、信頼できる他の会社との間で、相互に株式を保有し合うことを「株式の持合い」といいます。

この株式持合いを解消する際には、今まで信頼できる会社に保有されていた株式を、一時的にでも自己株式として取得することが安全策です。

持合い株式を解消する際、解消した株を敵対的な第3者に買い取られたら大変です。

メリット③:大株主等の株式売却時の自己株式の取得

大株主や提携先が株式を放出する際に、自己株式を買い受けることが可能であれば、それらの株式が敵対的買収をしようとする者に取得されることを防止できます。

その結果、企業の構造改革を推進し、証券市場の活性化を図るためにメリットがあるのです。
以上のようなメリットがあるため、会社法は、資本維持の原則に反することなく、株主等を害しないような財源規制及び取得手続規制の下で、自己株式の取得を許容しています。


自己株式を取得できる場合

会社が、自己株式の取得ができる場合は以下の場合に限定されております。

取得条項付株式の取得事由が生じた場合

例えば「株主が死亡した際には、会社がその株式を買い取ることとする」などのように、ある一定の事由が発生した際に、その株式を会社が取得する条件の付帯した株式を取得条項付株式と言います。

取得条項株式の性質上、会社が自己株式を取得することとなるのは当然のことです。

取得条項付株式を取得するのと引き換えに交付される会社財産の帳簿価額がその取得事由発生日における分配可能額を超えているときは、自己株式を取得することができません。

会社法170条5項

前各項の規定は、取得条項付株式を取得するのと引換えに第百七条第二項第三号ニからトまでに規定する財産を交付する場合において、これらの財産の帳簿価額が同号イの事由が生じた日における第四百六十一条第二項の分配可能額を超えているときは、適用しない。

譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合において買取等の請求があった場合

株式は原則として自由に譲渡可能です。しかし、株式を譲渡するときに会社の承認が必要となる譲渡制限株式を発行することができるとされています。

もし、会社が譲渡制限株式の譲渡を認めないとき、株主としては換金手段を失うことになります。

そこで会社法は、譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しない際に、その株式を買い取ることを義務づけています。この場合も会社は自己株式を取得することになります。

なお、この自己株式取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされています。

株主との合意により有償で取得する旨の株主総会の決議がある場合

会社の資本の不用意な流失を防ぐため、自己株式の取得は一定の制限が加えられていますが、会社の最高意思決定機関である株主総会の決議があるれば、認めないわけにはいかないでしょう。

なお、自己株式取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされています。

会社法156条

【株式の取得に関する事項の決定】
1 株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。ただし、第三号の期間は、一年を超えることができない。
一 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
二 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。以下この款において同じ。)の内容及びその総額
三 株式を取得することができる期間
2 前項の規定は、前条第一号及び第二号並びに第四号から第十三号までに掲げる場合には、適用しない。


取得請求権付株式の取得請求があった場合

株主からの請求があると会社がその株式の取得を義務付けられている株式を取得請求権付株式といいます。

株主からの請求があり、会社が取得した場合、その株式は自己株式ということになります。

全部取得条項付種類株式の取得決議があった場合

株主総会の決議によって、当該種類の全ての株式を取得することとなる種類株式を全部取得条項付種類株式といいます。

この全部取得条項付種類株式も、当然に自己株式という扱いになります。

全部取得条項付種類株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされています。

定款の規定に基づく相続人等に対する売渡請求をした場合

会社の承認なく譲渡することができない譲渡制限株式は、会社に不都合な株主を排除するための制度です。

ところが、一般的な譲渡と異なり、相続などで株を包括承継した場合、相続人は会社の承認を受けずに株主となります。

このように、譲渡制限株式を会社の承認を受けずに、相続人が包括承継した場合、会社は当該相続人にその株式を売り渡すように請求できます。

その結果として、会社が取得した株式は、もちろん会社の自己株式となります。

なお、自己株式取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされています。

会社法174条

【相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め】
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。


単元未満株式の買取請求かあった場合

株式は1株ごとに売買できることは少なく、通常は100株単位や1000株単位で取引されています。また株主総会での議決権も100株単位や1000株などのまとまりで付与されます。このように株主が議決権を手にすることができる株のまとまりを単元株といいます。

逆にいうと、単元未満の株しか保有していない場合、株主総会の議決権もなければ、市場での売却も制限されるため投下資本の回収もやりにくいのです。

そのため会社法では、単元未満株式の保有者は、会社に対して、その株式の買い取りを請求できることとされています。

会社法192条

【単元未満株式の買取りの請求】
1 単元未満株主は、株式会社に対し、自己の有する単元未満株式を買い取ることを請求することができる。 2 前項の規定による請求は、その請求に係る単元未満株式の数(種類株式発行会社にあっては、単元未満株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
3 第一項の規定による請求をした単元未満株主は、株式会社の承諾を得た場合に限り、当該請求を撤回することができる。

所在不明株主の株式の売却において会社が買い取る場合

会社から株主への通知や催告が到達しない場合や、剰余金の配当を受領しない株主など、所在不明の株主の保有する株式は、一定の手続きに則って、会社が買い取ることができることとされています。

この場合も、会社の自己株式の取得となります。

自己株式取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされます。

一定の株式の交付における端数の処理として売却される株式を会社が買い取る場合

例えば合併などの組織再編にあたって、会社が株主に割り当てる株式に1株未満の端数が生じることがあります。

そのような端数株式を会社が買い取る際も、会社の自己株式の取得が認められています。

なお、自己株式取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないとされています。

会社法234条

【一に満たない端数の処理】
1 次の各号に掲げる行為に際して当該各号に定める者に当該株式会社の株式を交付する場合において、その者に対し交付しなければならない当該株式会社の株式の数に一株に満たない端数があるときは、その端数の合計数(その合計数に一に満たない端数がある場合にあっては、これを切り捨てるものとする。)に相当する数の株式を競売し、かつ、その端数に応じてその競売により得られた代金を当該者に交付しなければならない。
 一 第百七十条第一項の規定による株式の取得 当該株式会社の株主
 二 第百七十三条第一項の規定による株式の取得 当該株式会社の株主
 三 第百八十五条に規定する株式無償割当て 当該株式会社の株主
 四 第二百七十五条第一項の規定による新株予約権の取得 第二百三十六条第一項第七号イの新株予約権の新株予約権者
 五 合併(合併により当該株式会社が存続する場合に限る。)合併後消滅する会社の株主又は社員
 六 合併契約に基づく設立時発行株式の発行 合併後消滅する会社の株主又は社員
 七 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得 株式交換をする株式会社の株主
 八 株式移転計画に基づく設立時発行株式の発行 株式移転をする株式会社の株主
2 株式会社は、前項の規定による競売に代えて、市場価格のある同項の株式については市場価格として法務省令で定める方法により算定される額をもって、市場価格のない同項の株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することができる。この場合において、当該許可の申立ては、取締役が二人以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない。
3 前項の規定により第一項の株式を売却した場合における同項の規定の適用については、同項中「競売により」とあるのは、「売却により」とする。
4 株式会社は、第二項の規定により売却する株式の全部又は一部を買い取ることができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
 一 買い取る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
 二 前号の株式の買取りをするのと引換えに交付する金銭の総額
5 取締役会設置会社においては、前項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。
6 第一項から第四項までの規定は、第一項各号に掲げる行為に際して当該各号に定める者に当該株式会社の社債又は新株予約権を交付するときについて準用する。


他の会社(外国会社を含む)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社が有する株式を取得する場合

他の会社から事業を譲り受ける場合において、『譲り渡す会社(A)』が『譲り受ける会社(B)』の発行する株式を保有している場合、自己株式の取得という結果になってしまいます。

A会社が、B会社の発行するb株式を保有していると考えてみましょう。B会社がA会社の事業をまるごと譲り受けた場合、事業とともにb株式も譲り受けたととすると、B会社は自己株式bを取得するという結果になってしまいます。

合併後消滅する会社から株式を承継する場合

合併によって消滅会社する会社が、存続会社の発行する株式を保有していた場合、合併に伴って存続会社は自己株式を取得する結果となってしまいます。

吸収分割をする会社から株式を承継する場合

分割会社が、存続会社の発行する株式を所有している場合、会社分割によって、存続会社自己株式を取得する結果となってしまいます。

その他法務省令で定める場合

会社法461条

1 次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。
一 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り
二 第百五十六条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第百六十三条に規定する場合又は第百六十五条第一項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。)
三 第百五十七条第一項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得
四 第百七十三条第一項の規定による当該株式会社の株式の取得
五 第百七十六条第一項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り
六 第百九十七条第三項の規定による当該株式会社の株式の買取り
七 第二百三十四条第四項(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による当該株式会社の株式の買取り
八 剰余金の配当
2 前項に規定する「分配可能額」とは、第一号及び第二号に掲げる額の合計額から第三号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(以下この節において同じ。)。
 一 剰余金の額
 二 臨時計算書類につき第四百四十一条第四項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第三項の承認)を受けた場合における次に掲げる額
  イ 第四百四十一条第一項第二号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
  ロ 第四百四十一条第一項第二号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
 三 自己株式の帳簿価額
 四 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
 五 第二号に規定する場合における第四百四十一条第一項第二号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
 六 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額


合意による自己株式の有償取得の手続き規制

「合意」による自己株式の取得とは、株式会社と株主との間において、取得についての合意が成立する場合をいい、「有償取得」とは、発行会社の計算において発行会社の自己株式を有償で取得することをいいます。

株主との合意により自己株式を有償で取得するには、原則として、以下のような手続きを踏むことが必要です。株主総会の決議の後に取締役会(取締役)の決定をもって自己株式が取得に至ります。

  1. 株主総会の普通決議によって、取得する自己株式の株式数やその対価総額、取得期間(1年以内)を定めます。これを株主総会による取締役会への授権決議といいます。
  2. 自己株式を取得しようとする都度、取締役(取締役会設置会社においては取締役会)が、以下の事項を定めます
  3. ・取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)
     ・株式一株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及び数もしくは額又はこれらの算定方法
     ・株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の総額
     ・株式の譲渡しの申込みの期日

  4. 株主全員(種類株式発行会社では、取得する株式の種類の種類株主)に対して、上記の事項を通知します。ただし、公開会社ではこの通知を公告に代えることができます
  5. 通知を受けた株主は会社に対して譲渡しの申込みをすることができ、会社は申込期日に株主が申込みをした株式の譲受けを承諾したものとみなすことができます。

会社法156条

【株式の取得に関する事項の決定】
  1 株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。ただし、第三号の期間は、一年を超えることができない。
 一 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
 二 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。以下この款において同じ。)の内容及びその総額
 三 株式を取得することができる期間
2 前項の規定は、前条第一号及び第二号並びに第四号から第十三号までに掲げる場合には、適用しない。

会社法157条

【取得価格等の決定】
  1 株式会社は、前条第一項の規定による決定に従い株式を取得しようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。
 一 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)
 二 株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
 三 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額
 四 株式の譲渡しの申込みの期日
2 取締役会設置会社においては、前項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。
3 第一項の株式の取得の条件は、同項の規定による決定ごとに、均等に定めなければならない。

会社法158条

【株主に対する通知等】
  1 株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対し、前条第一項各号に掲げる事項を通知しなければならない。
2 公開会社においては、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

会社法159条

【譲渡しの申込み】
  1 前条第一項の規定による通知を受けた株主は、その有する株式の譲渡しの申込みをしようとするときは、株式会社に対し、その申込みに係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)を明らかにしなければならない。
2 株式会社は、第百五十七条第一項第四号の期日において、前項の株主が申込みをした株式の譲受けを承諾したものとみなす。ただし、同項の株主が申込みをした株式の総数(以下この項において「申込総数」という。)が同条第一項第一号の数(以下この項において「取得総数」という。)を超えるときは、取得総数を申込総数で除して得た数に前項の株主が申込みをした株式の数を乗じて得た数(その数に一に満たない端数がある場合にあっては、これを切り捨てるものとする。)の株式の譲受けを承諾したものとみなす。


特定の株主からの自己株式の取得

株主総会の普通決議で、会社が株主との合意により自己株式を取得する場合は、原則として全ての株主に対して、株式売却の機会を与えなければなりません。

しかし、株主総会の普通決議よりより厳格な特別決議を行うことにより、株式会社は、特定の株主に対してのみ株式売却の機会を与えることができます。

もっともこの場合でも、株式売却の機会を与えられなかった株主は、特定の株主に自己を加えたものを自己株式の取得対象に含めることを請求することができるのが原則です。

そして会社は、このような特定の株主に自己を加えたものを自己株式の取得対象に含めるよう求める請求ができることを株主に対して通知しなけれはなりません。これは、株主に平等な売却機会を与える趣旨です。

ただし、以下の場合は、株主は、特定の株主に自己を加えたものを自己株式の取得対象に含めることを請求することができません。

  1. 取得する株式が市場価格のある株式である場合において、当該株式一株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の額が当該株式一株の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えないとき
  2. あえて会社に自己株式として取得してもらわなくても、市場でより高く売却できるためです。

  3. 定款において、自己株式の取得対象に自己の株式を含めるよう請求する規定を適用しない旨を定めていたとき
  4. ただし、定款の変更によってこの定めを置くときは、株主全員の同意が必要です。

  5. 公開会社以外の会社において相続人等から取得する場合
  6. 発行会社にはコントロールできない事情によって、会社にとって好ましくない者が株主となってしまった状態を解消する措置を採りやすくするためです。

  7. 子会社から取得する場合
  8. 子会社は親会社株式の取得が原則的に禁止されています。そのため例外的に親会社株式を取得した場合にも相当な時期に処分が義務付けられていますが、その一方で親会社株式の売却先を見つけることは困難である場合が多いためです。


市場取引、公開買付の方法による自己株式の取得

取締役会設置会社においては、市場取引、公開買付により自己株式を取得することを取締役会の決議により定めることができる旨を定款で定めることができます。

この定款の定めがあれば、会社法156条が定める株主総会による授権決議なしに、取締役会の判断で機動的に自己株式を取得することができます。

また、取締役会を設置しない会社においても、株主総会による授権決議に基づいて市場取引、公開買付により自己株式を取得する場合には、会社法157条から160条に定める自己株式の取得のにあたっての一連の手続き規定は適用されません。

会社法165条

1 第百五十七条から第百六十条までの規定は、株式会社が市場において行う取引又は金融商品取引法第二十七条の二第六項に規定する公開買付けの方法(以下この条において「市場取引等」という。)により当該株式会社の株式を取得する場合には、適用しない。
2 取締役会設置会社は、市場取引等により当該株式会社の株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができる。


子会社からの自己株式の取得

子会社は親会社株式を原則として取得することができません。

そのため、子会社が例外的に親会社株式を取得してしまった場合には相当の時期に処分しなければなりません。

しかし、親会社株式の売却先を見つけるのが困難な場合もあり、子会社による親会社株式の保有を早期に解消する必要もあります。

そこで、株主総会 (取締役会設置会社では、取締役会)の決議に基づき、親会社は子会社から自己株式を取得できるとされています。

この場合、株主は、特定の株主に自己を加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができません。

子会社が親会社株式を取得すること自体が例外的であるうえに、迅速な処分が要請されるからです。

会社法135条

【親会社株式の取得の禁止】
1 子会社は、その親会社である株式会社の株式(以下この条において「親会社株式」という。)を取得してはならない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合
二 合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合
三 吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
四 新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める場合
3 子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない。


会計監査人設置会社の自己株式取得

会計監査人が置かれており(監査役会又は委員会が設置されている会社)、かつ、取締役の任期が1年以内の会社においては、すべての株式を対象とした自己株式の取得については取締役会決議で行う旨定款で定めることができます。

このような会社では、剰余金の配当自体が取締役会の決議事項とされており、全ての株式を対象とした自己株式の取得は経済的に見て剰余金の配当と類似することから、同様に取り扱います。

一方で、特定の株主からの株式取得は剰余金の配当と類似するとはいえず、定款の定めをもってしても、取締役会の決議事項とすることはできません。

会計監査人が設置されている会社は、取締役会の決議だけで自己株式を取得することができるのです。


会社の自己株式の保有

会社が自己株式を取得した場合、会社はその自己株式を特に期間制限なく保有できます。

保有する自己株式の法的地位

自己株式の共益権

自己株式に議決権は認められません。同時に、の他の共益権も認められないものと解されています。

自己株式の自益権

・剰余金配当請求権

従来争いがあったが、会社が受ける利益配当が配当可能利益と受取配当金とに二重に計上され、投資者に誤解を与えるおそれがあることから、明文で否定された

・残余財産分配請求権

これを認めると残余財産の分配が無限に続くことになるので明文で否定されている

・株式分割・株式併合

株式分割・株式併合がなされた際に、自己株式にもその効果が及ぶかどうかについては、自己株式の換価価値を維持する必要があるとしてこれを肖定する見解が有力である

・株式・新株予約権等の割当てを受ける権利

明文で否定されている   


自己株式の処分

会社が自己株式を処分する場合、新株予約権の行使に際して新株発行に代えて移転する場合等の一定の場合を除き、新株発行と同じ規制が加えられています。(199以下)。

すなわち、自己株式は以下の場合に限って処分できます。

  • 株式の引受人の募集をする場合(199)
  • 取得条項付株式等の対価として交付する場合(108Ⅱ⑤ロ等)
  • 合併・企業分割等の企業再編成の対価として交付する場合(749等)


自己株式の処分が、法定の手続きによらず行われた場合には、株主、取締役、監査役、執行役等は、自己株式の処分の無効の訴えを6か月以こ提起することができます(828Ⅰ③)

会社法828条1項3号

【会社の組織に関する行為の無効の訴え】
1 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
 三 自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内)


手続規制違反の自己株式取得の効力

会社が自己株式を取得する際、「分配可能額を超えてはならない」と規定されておりますが、一定の条件に該当する場合、財源規制に反していても自己株式が取得されてしまう場合があります。

このように財源規制に違反して自己株式が取得された場合でも、その自己株式の取得自体は有効となり、財産的損害に関して株主・取締役等に支払義務が発生します。

これに対し、会社が積極的に取得手続規制に違反して自己株式を取得した場合、このような自己株式取得の効果をどのように解すべきか、明文がないため問題となります。

たとえば、定款に別段の定めのない取締役会設置会社が、株主総会決議を経ずに取締役会決議のみで、公開買付の方法で自己株式を取得した場合などが問題となります。

自己株式取得手続規制の趣旨から考えると、自己株式取得手続規制に違反する自己株式取得の効果は原則として無効であると解されます。

なぜなら自己株式取得手続規制に違反して自己株式が取得された場合、会社をとりまくすべての利害関係人に悪影響を及ぼすためです。

もっとも、自己株式取得が第三者名義で行われた場合、譲渡人は自己株式取得手続規制に反することを知り得ない場合が多く、常に無効とすれは取引安全を著しく害することになります。

そのため、自己株式が第三者名義で取引された場合には、譲渡人が悪意である場合にのみ無効となるとなります。

なお、ここでの「譲渡人の悪意」とは、自己株式取得手続規制に反することを譲渡人が知っていることを指します。

つまり、自己株式の譲渡人が、会社の自己株式の取得が禁止されていることを知っていながら、あえて、会社に株式を譲渡する場合は、その自己株式取得は無効ですよということです。

会社法462条

【剰余金の配当等に関する責任】
前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
一 前条第一項第二号に掲げる行為 次に掲げる者
 イ 第百五十六条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役(当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)
 ロ 第百五十六条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役(当該取締役会に議案を提案した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)
二 前条第一項第三号に掲げる行為 次に掲げる者
 イ 第百五十七条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
 ロ 第百五十七条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
三 前条第一項第四号に掲げる行為 第百七十一条第一項の株主総会(当該株主総会の決議によって定められた同項第一号に規定する取得対価の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合における当該株主総会に限る。)に係る総会議案提案取締役
四 前条第一項第六号に掲げる行為 次に掲げる者
 イ 第百九十七条第三項後段の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
 ロ 第百九十七条第三項後段の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
五 前条第一項第七号に掲げる行為 次に掲げる者
 イ 第二百三十四条第四項後段(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた第二百三十四条第四項第二号(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
 ロ 第二百三十四条第四項後段(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた第二百三十四条第四項第二号(第二百三十五条第二項において準用する場合を含む。)の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
六 前条第一項第八号に掲げる行為 次に掲げる者
 イ 第四百五十四条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
 ロ 第四百五十四条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役


片倉工業事件(東京地判平3.4.18)


企業防衛のための自己株式取得の適法性が争われた事案において、「弊害の生じないことが類型的に明らかな場合に限られ、それ以外の場合には、仮に個別的に判断して会社や会社関係者の重大な損害の回避のためにやむを得ない事情があると認められるような場合であっても、自己株式の取得は許容されない」と判示している。

自己株式の取得の無効の主張権者

取得規制に違反した自己株式の取得を無効と考える場合、その無効を主張できる者の範囲をどのように解すべきかが問題となります。

法律行為の無効は誰からでも主張できるのが一般私法上の大原則です。

しかし、自己株式取得規制の趣旨からすれば、自己株式を譲渡した張本人である譲渡人に無効主張を認める必要はないのではないかが問題となります。

自己株式の主張により会社財産が棄損されることで不利益を被るのは会社・会社債権者・一般投資家・一般株主です。

そのため、自己株式取得規制で保護されるべきであるのは、会社・会社債権者・一般投資家・一般株主です。

これに対して、譲渡人は相手方が誰であろうと株式を譲渡することによりその目的を達成したはずであり、譲渡人からの無効主張を認めれば、譲渡人に余計な投機の機会を与えてしまうことになります。

したがって、自己株式取得規制違反による無効を主張できるのは会社側の者に限られ、譲渡人は無効主張てきないと解するのが相当です。


自己株式取得と取締役等の責任

財源規制として「分解可能額を超えて」会社が自己株式を取得した際は、自己株式の取得自体は基本的には有効となることを解説してきました。

しかし例えば、取締役が自己株式の取得によって不正に株価を吊り上げ、自己の利益を図る目的を持っていたなどの悪質な場合は、刑事罰が科されることがあります。

一般的に、取締役が法令違反の行為をした場合、取締役は会社に対して損害賠償責任を負います。

また取締役等は、業務執行において財源規制に違反した場合には、対価として交付した金銭の返還をしなければなりません。

さらに、悪意・重過失があれば第三者に対しても損害賠償責任を負うこととされています。

裁判例:大阪地判平15.3.5

会社が自己株式取得により被った損害額は「本件自己株式の取得価額から取得時点における本件自己株式の時価を減算した額」であるとした。

取締役は会社経営について、重大な責任を負うのです。

会社法963条

【会社財産を危うくする罪】
1 第九百六十条第一項第一号又は第二号に掲げる者が、第三十四条第一項若しくは第六十三条第一項の規定による払込み若しくは給付について、又は第二十八条各号に掲げる事項について、裁判所又は創立総会若しくは種類創立総会に対し、虚偽の申述を行い、又は事実を隠ぺいしたときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
5 第九百六十条第一項第三号から第七号までに掲げる者が、次のいずれかに該当する場合にも、第一項と同様とする。
 一 何人の名義をもってするかを問わず、株式会社の計算において不正にその株式を取得したとき。
 二 法令又は定款の規定に違反して、剰余金の配当をしたとき。
 三 株式会社の目的の範囲外において、投機取引のために株式会社の財産を処分したとき。

会社法423条1項

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

会社法462条1項

【剰余金の配当等に関する責任】
前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。

会社法429条

【役員等の第三者に対する損害賠償責任】
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。


自己株式取得制限の解釈上の例外

会社名義で自己株式を取得する場合でも、無償取得・他人の計算に基づく場合のように弊害が生じないことが明らかな場合には、株主総会決議等、会社法155条以下が定める手続きを経ずに取得できます。

ではそれ以外に、会社事業の継続・安定や会社の損失を防止するなど、会社の利益を守るために緊急避難的に株主総会の決議を省略することはできるかが問題となります。

法は自己株式取得につき、市場取引・公開買付の方法による場合(165)等の例外を除き、原則として株主総会の決議を要求しており(156以下)、不当取得に対しては重い刑罰(963V①)をも定めています。

そうだとすれば明文規定がない場合にもかかわらず、会社の利益のためという理由のみにより株主総会決議を省略てきる趣旨とは考えられません。

また、そのような理由により自己株式の取得を認めれは、取締役による濫用や誤判断のおそれもあります。

したがって、法が定める手続きを経ずに自己株式を取得できるのは、無償取得や、問屋たる会社が取次行為として取得する場合等、弊害が生じないことが類型的に明らかな場合に限られるものとされます。

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