特許法

世界一わかりやすい『特許法』入門講義

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目次

特許法の目的は、何のためにあるのか

特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的としています(特許法第1条)。

発明の保護の中心となるのが発明者に与えられる特許権です。

特許権は、特許庁における審査の後、設定の登録により発生する権利であり(66条第1項)、特許法第68条は特許権の効力について「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」と規定しています。

「業として」とは、個人的・家庭的な行為には特許権の効力が及ばないことを規定するものです。営利を目的としない場合であっても事業として行われている場合には特許権の効力が及びます。

「特許発明」とは、特許を受けている発明を意味します(2条2項)。

「権利を専有する」とは、特許権者のみが実施をする地位にあることを意味します。

「実施」は特許法第2条第3項に定義されており、特許発明された物など生産、使用、譲渡等する行為をさします。

例えば、ある製薬会社がコロナウイルスのワクチンの特許を取得した場合、特許権者である製薬会社の許可なく、そのワクチンを製造・販売することは認められません。

この場合、特許の「権利を専有する」のは、特許権者である製薬会社であり、特許の「実施」は、コロナウイルスのワクチンを製造・販売する行為を指すことになります。

なお特許法上、発明は①物の発明、②単純方法の発明、③生産方法の発明の3つのカテゴリーに分けられており、カテゴリーごとに実施の定義が異なることことになります。

特許法第2条第3項

3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為


特許法における発明とは何か

特許法における発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であると定義されています。

・発明は自然法則を利用したものではありますが、例えばエネルギー保存の法則、万有引力の法則などの自然法則自体は発明には該当しません。

・発明は、創作されたものでなければならないから、発明者が目的を意識して創作していない鉱石などの天然物、自然現象等の単なる発見は、「発明」に該当しません。

しかし、天然物から人為的に単離した化学物質、微生物等は、創作されたものであり、「発明」に該当します。

・エネルギー保存の法則に反する永久機関など、自然法則に反するものも発明とは言えません。

理論的に不可能で再現性がない空論は、発明とは呼べないのです。

・例えば、経済法則などの自然法則以外の法則、ゲームのルールなどの人為的な取決め、数学上の公式、人間の精神活動、これらのみを利用しているビジネスを行う方法は、自然法則を利用しているとは言えず、発明には該当しません。

ただし、発明特定事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用したものとなります。

・例えば、野球におけるフォークボールの投げ方など、個人の熟練によって到達し得るものであって、知識として第三者に伝達できる客観性が欠如している「技能」は技術的思想とは認められません。

・課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なものも発明とは言い難いでしょう。

特許法第2条第1項

この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。


何が「発明」と言えるのかの判断は、一見簡単そうですが、難しくて奥の深い問題ですね。

産業上利用することができる発明

特許を受けることができるのは「産業上利用することができる発明」に限定されています。

「産業」は広義に解釈し、製造業以外の、鉱業、農業、漁業、運輸業、通信業等も含まれると解されています。

産業上利用可能性が無い発明として具体的には以下のものがあります。

・風邪の治療方法など、人間を手術、治療又は診断する方法の発明

・喫煙方法など個人的、学術的にのみ利用され、業として利用できない発明

・地球全体を紫外線吸収プラスチックフィルムで覆う方法など、現実的に明らかに実施できない発明


特許法第29条第1項柱書

産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

特許が認められる医薬・医療機器と医療行為との相違点

「外科手術の光学的表示方法事件」平成12年(行ケ)第65号(東京高裁2002年4月11日)

医薬や医療機器の場合、それが特許の対象となったとしても、それだけでは、現に医療行為に当たろうとする医師にとって、そのとき現在自らの有するあらゆる能力・手段を駆使して医療行為に当たることを妨げるものではない。

特許の対象となった医薬や医療機器を用いて、医師は、何らの制約なく、自らの力を発揮することが可能である。

もちろん医師が本来なら使用したいと考える医薬や医療機器が、特許の対象となっているため使用できない、という事態が生じることはあり得る。

特許対象となった医薬や医療機器を入手できなくても、医師が、現に医療行為に当たろうとする時点において、そのとき現在自らの有する能力・手段を最大限に発揮することを妨げることにはならない。

つまり医師は、これから自分が行おうとしていることが特許の対象になっているのではないか、などということは、全く心配することなく、医療行為に当たることができるのである。

特許権が付与された最新の医療機器を、特許権者への許可なく利用できなくても、医者は与えられた医療環境の中で、最大限のスキルを発揮できるのです。

一方で医療行為の場合、医薬や医療機器とは状況が異なる。

医療行為そのものにも特許性が認められるという制度の下では、現に医療行為に当たる医師にとって、少なくとも観念的には、自らの行おうとしている医療行為が特許の対象とされている可能性が常に存在するということになる。

しかも、一般に、ある行為が特許権行使の対象となるものであるか否かは、必ずしも直ちに一義的に明確になるとは限らず、結果的には特許権侵害ではないとされる行為に対しても、差止請求などの形で権利主張がなされることも決して少なくないのが現実である。

医師は、常に、これから自分が行おうとしていることが特許の対象になっているのではないか、それを行うことにより特許権侵害の責任を追及されることになるのではないか、どのような責任を追及されることになるのか、などといったことを恐れながら、医療行為に当たらなければならないことになりかねない。

医療行為そのものを特許の対象にする制度の下では、それを防ぐための対策が講じられた上でのことでない限り、医師は、このような状況で医療行為に当たらなければならないことになるのである。

医療行為に当たる医師をこのような状況に追い込む制度は、医療行為というものの事柄の性質上、著しく不当であるというべきであり、我が国の特許制度は、このような結果を是認するものではないと考えるのが、合理的な解釈である。

医療機器や医薬品などの目に見える形のある有体物とは異なり、医療行為そのものは医療従事者が技能や知識を駆使して実際に現場で行う役務です。

目の前の患者の命や健康と向き合い、迅速かつ臨機応変な対応が求められる医療現場で、これから行おうとしている医療行為が特許の対象かどうか考えている余裕などありませんね。


特許権の専用実施権とは何か

特許法の68条では、特許権者が専用実施権を設定した場合には、その専用実施権の範囲内には特許権の効力は及ばないとされております。

特許権とは、ある発明について、その発明を使用してモノを生産、使用、譲渡等する行為を禁止する権利です。

例えば、ニコニコ動画で有名なドワンゴは、動画再生時にリアルでコメントを表示する特許を取得しています。

その結果、特許権者であるドワンゴの許可なく、まったく同じ技術仕様の「動画再生時にリアルでコメントを表示する特許」を使用し、動画配信サービスを提供すると、ドワンゴの特許権の侵害となってしまいます。

しかし仮に、特許権者であるドワンゴが、自らが保持する「動画再生時にリアルでコメントを表示する特許」は、もう使わないので、他の会社などに当該特許権を使用してサービスを提供することを認めたることが考えられます。

このように特許権者が所有する「その発明を使用してモノを生産、使用、譲渡等する行為」を誰かに与えてしまうことを特許権の「専用実施権」といいます。

特許権自体を譲渡する場合とは異なり、特許権そのものは特許権者が保持したまま、他の者に特許権の実施する権利を包括的に認めることが、専用実施権の特徴となります。

特許法第68条

特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

特許法第77条第1,2項

1 特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる。
2 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する。


特許権の権利消尽「BBS事件」平成7年(オ)第1988号(最高裁判所平成9年7月1日)

特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされている(特許法六八条参照)。

物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号)。

そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再譲渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。

しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。

特許権者がその発明品を、一度適法に譲渡すると、その製品について特許権は消滅し、転売者は特許権者の承諾なく発明品を転売できるようになるのです。

特許権があるとはいえ、一度製品化されて市場に流通されたのであれば、転売するたびに特許権者の承諾を受けなければならないと、非常に煩雑ですし、自由な経済活動を阻害する要因になります。

特許製品の消尽が認められる理由は、以下の通りです。

(1)特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、

(2)一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものでる

仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになる

(3)他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない。

特許製品が初めに適法に譲渡される際、特許権者は相当な対価を受けるのが通常であり、転売される度に特許権者に利益が還元されるのは特許権者に必要以上の利益をもたらすことになります。


国内出願における特許取得手続きの流れ

発明と同時に特許を受ける権利が発生します。特許を受ける権利は譲渡することができます。

特許を受ける権利を有する者が特許の取得を希望する場合には、特許庁に対し特許出願を行います。

特許出願は、願書に明細書、特許請求の範囲、必要な図面および要約書を添付して行います(36条2項)。

特許庁において、特許出願が所定の方式により行われているか、所定の手数料が納付されているか等の形式的な要件についての審査を行います。

方式違反があった場合には、相当の期間を指定して補正命令又は補完命令がなされます(17条3項、38条の2第2項)。 これに対し、出願人は補正又は補完を行って方式違反を解消することができます(17条第1項、38条の2第3項)。

出願人が補正命令又は補完命令に応じない場合には出願が却下されます(18条、38条の2第8項)。

特許出願を行った日から1年6月が経過すると、出願の内容が公報に掲載されます(64条)。

特許出願人がより早く出願公開されることを望む場合、出願公開の請求をすることができます(64条の2)。

何人も特許出願が行われた日から3年以内に出願審査の請求をすることができます(48条の3第1項)。

何人も審査請求できることとしているのは、出願人以外の者も出願された発明についての審査結果を早期に得たいと考える場合があるためです。

出願審査の請求がされると特許庁の審査官が、特許出願された発明について、新規性、進歩性などの審査を行います(47条)。

審査官は、実体審査の結果、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し拒絶する理由(49条各号)を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えます(50条)。

特許出願人は、審査官に対して意見書を提出して反論をすることができます。

また、特許出願人は、特許庁長官に対し、特許請求の範囲に記載した発明を補正する手続補正書を提出する等して拒絶理由を解消することもできます。

審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定を行います(51条)。

特許査定謄本の送達後、30日以内に(108条第1項)、第1年から第3年の各年分の特許料を納付すると、特許権が設定登録され、特許権が発生します(66条1項、2項)。

審査官は、拒絶理由通知の後、拒絶理由が解消できていないと判断した場合には拒絶をすべき旨の査定を行います(49条)。

拒絶をすべき旨の査定を受けた出願人は、その査定に不服があるときは、その査定謄本の送達があった日から3月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます(121条)。

審判請求がされると、拒絶査定に違法性がないかを3人又は5人の審判官の合議体により審理します(136条)。

拒絶査定に違法性があり、他の拒絶理由も発見されない場合には、特許をすべき旨の審決がなされます(159条第3項)。

特許審決の謄本の送達後、30日以内に(108条第1項)、第1年から第3年分の特許料を納付すると、特許権が設定登録され、特許権が発生します(66条1項、2項)。

拒絶査定不服審判の審理においても特許をすべきでないとの結論に至った場合には、拒絶をすべき旨の審決がなされます(157条)。

審決に対して不服がある場合には、審決謄本の送達があった日から30日以内に、東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に審決取消訴訟を提起することができます(178条)。

審決取消訴訟において審決に違法性が無いか審理され、判決が出されます。審決に違法性がある場合には審決が取り消され、再度審判に係属します(181条)。この点、審査に再度係属しない審判とは異なります。


特許の取得までには、数年に及ぶ多くの手続きが必要とされるのです。

特許を受ける権利とは

発明をして特許庁に特許権として登録されれば、特許権という財産権が生じますが、特許の取得には多くの時間と手間が必要とされます。

そこで、発明をして特許権として登録されるまでの間でも、将来の特許となりうる権利として「特許を受ける権利」が認められています。

特許を受ける権利は、国家に対して特許を請求する権利であるとともに財産権の一種であるともいうことができます。

特許を受ける権利は、発明をすることにより生じます。

特許を受ける権利は経済的な価値のある財産権であるので、当然に第三者に移転することができます。

しかし、「特許を受ける権利」は質権の目的とすることはできません。

一方で、特許権自体を目的とする質権の設定は可能ですのです。

特許を受ける権利を抵当権の目的とすることもできません。抵当権は、抵当権を設定できる旨の規定がない限り認められず、特許権にはそのような規定はないためです。

なお、特許を受ける権利は譲渡担保の目的とすることはできると解されています。

譲渡担保とは、債権者が債権担保の目的で財産権を債務者などから法律形式上譲り受け、被担保債権の弁済をもってその権利を返還するという形式をとる担保方法です。


特許法第29条

(特許の要件)
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

特許法第33条

(特許を受ける権利)
1 特許を受ける権利は、移転することができる。
2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。

民法第342条

(質権の内容)
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

民法第369条

(抵当権の内容)
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。


特許を受ける権利の共有

不動産や電化製品などのカタチのある有体物の場合にあっては同時に同一物を複数人が利用することは不可能か、又は相当の制約が伴います。

限られたスペースの1ルームのマンションの一室に、誰かが生活していると、同時にその場所で生活することは多くの制約が生じます。

しかし、発明のようなカタチのない権利である無体財産は数多くの人が同時に利用する場合でも、利用者相互になんら制約を伴わず、それぞれの者が完全に権利を行使(実施)することができます。

しかも、発明の実施はその実施に投下する資本と、関与する技術者如何によって著しく違った結果を生み出すものですので、持分の譲渡がされて共有者が変わることにより他の共者の持分価値も著しく違ってくる場合があるのです。

このような結果の生じることを防ぐため、特許を受ける権利の持分の譲渡には他の共有者の同意を要するものとしています。


ある技術を共に発明する仲間が誰であるかは、非常に重要ですので、他の共有者の承諾なしでは持分を譲渡できないのです。

特許を受ける権利の承継

特許を受ける権利は発明をすることにより生じるものですので、特許を受ける権利の承継という行為は特許出願前にされることもあり得るわけですが、その承継については適当な公示手段もないので、特許出願をもって対抗要件としたものです。

特許を受ける権利の承継において特許出願は効力発生要件とはなっていません。もし効力発生要件とすると、特許出願前においては特許を受ける権利の承継をすることができないということになり、そうなると社会の実情から考えて不便が多いためです。

ある発明者が完成させた1つの発明についての特許を受ける権利の取扱いについては、特許出願をもって対抗要件とします。

一方で、複数の発明者が同一の発明を完成させた場合にどちらに特許を与えるかは、先に出願した者が特許を受けることが出来る先願主義の考えがとられています。

なお、同じ日に2人以上の者による2以上の特許出願があったときは、これらの特許出願人に協議を命じ、協議により定められた者のみが承継について第三者に対抗することができることになります・ 。

特許法においては、新規性判断の場合を除き、特許出願の先後については日の先後のみを問題とし、同日中の時間の先後は問題としないこととしています。

特許出願後における特許を受ける権利の承継に関しては、特許権の移転等と同じように、権利の帰属関係を明確にするため、届出をもって効力発生要件としています。

なお、相続その他の一般承継(法人の合併を含)については、届出が効力発生要件とはされていません。

相続その他の一般承継は、届出が効力発生要件とはされていませんが、承継があった旨を特許庁長官に届け出なければならない義務が課せられています。

これは相続等の事実が発生した時点から承継の届出がされるまでの間は権利者はいないという事態が発生するので、それを防ぐためです。

特許法第34条

1 特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない。
2 同一の者から承継した同一の特許を受ける権利について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた者以外の者の承継は、第三者に対抗することができない。
3 同一の者から承継した同一の発明及び考案についての特許を受ける権利及び実用新案登録を受ける権利について同日に特許出願及び実用新案登録出願があつたときも、前項と同様とする。
4 特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じない。
5 特許を受ける権利の相続その他の一般承継があつたときは、承継人は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
6 同一の者から承継した同一の特許を受ける権利の承継について同日に二以上の届出があつたときは、届出をした者の協議により定めた者以外の者の届出は、その効力を生じない。

職務発明と特許

会社の従業者等が行った所定の発明(職務発明)について従業者等が特許を取得した場合に、会社等に発明を実施する権利である法定通常実施権を認められます。

会社の業務として発明を行った場合、当然に会社にもその発明にかかる特許を利用する権利が与えられるのです。

また、職務発明以外の発明については、あらかじめ会社等に特許を受ける権利を取得させるなどの契約、勤務規則は認めないこととしています。

会社に雇われている従業員と言えども、職務と関係ないプライベートで行った発明についてまで、自由に会社に利用されては理不尽です。

職務発明制度は、「使用者、法人、国又は地方公共団体(使用者等)」が組織として行う研究開発活動が我が国の知的創造において大きな役割を果たしていることにかんがみ、使用者等が研究開発投資を積極的に行い得るよう安定した環境を提供するとともに、職務発明の直接的な担い手である個々の「従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(従業者等)」が使用者等によって適切に評価され報いられることを保障することによって、発明のインセンティブを喚起しようとするものです。(特許庁homepage)

職務発明の要件

職務発明とは、「従業者等がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者の現在または過去の職務に属する発明」を言います。

「業務範囲に属する」は、使用者等の業務と関係がある発明であることを職務発明の要件としています。例えば、自動車会社の社員が食品の発明を完成しても職務発明にはなりません。

「現在または過去の職務に属する」は、従業者等が発明に関連する職務に携わっている(又は携わっていた)ことを職務発明の要件としています。例えば、自動車会社の経理担当者が、自動車の発明をした場合には職務発明にはなりません。

会社で実際に従事していたり、過去に従事していた業務と関係ない発明は、当然に職務発明とはなりません。

また、職務発明における「使用者等」は、「使用者、法人、国又は地方公共団体」であり、国や地方公共団体も含まれます。

一方で、職務発明における「従業者等」は、「従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員」であり、法人の役員が従業者側に含まれています。


職務発明における通常実施権

会社等の従業者等が職務発明をした場合、会社は通常実施権を有し、その発明を実施する権利生じます。

例えば、日産自動車が開発したプラスチックを「ハチの巣状」に加工した自動車用の遮音材は、従来のゴム製品の4分の1の重量で、より高い遮音性を実現し関連特許を取得しました。

この遮音材は日産自動車の技術者が職務として開発したものなので、職務発明として日産自動車には通常実施権が認められるはずです。

通常実施権が認められる日産自動車は、この遮音材を利用し実際に自動車を製造・販売し利益を上げることが認められます。

このように取得した特許にかかる技術に基づいて、実際に製造・販売を行うことが出来るのが通常実施権と言われる権利です。

実際には、社員が職務発明を行った場合は、就業規則等で会社を特許権者とする旨の特約がある場合が多いと思われます。

会社の職務として行った発明であり以上、使用者等も直接的又は間接的にその発明の完成に貢献しているのが一般的です。

そのため、もし原則通り、特許を受ける権利を使用者等に取得させず、発明者又はそれ以外の第三者が特許を取得した場合には、使用者等と従業者等の利益の衡平を図るため、通常実施権を認めることとしているのです。

また、職務発明について特許を受ける権利を承継した者(使用者等以外)が特許を受けたときも、同様に使用者等に通常実施権が与えられることになります。

職務発明に関して通常実施権を与えられた使用者等は、従業者等にライセンス料を払うことなく、業として特許発明を実施することができます。


職務発明における特許権は誰のもの?

特許法においては、職務発明における特許権は、実際に発明に携わった社員(従業者等)へ与えられることが原則とされます。

しかし実際は就業規則や契約などで、会社等の使用者が職務発明の特許権を取得することが一般的となっています。

職務として研究開発や発明を行っている以上、職務発明は、多くの従業員が関与し、組織として成し遂げた成果捉えられます。

だとすれば、特定の従業員へ特許を与えるよりも、会社が特許権者となることがスマートです。

会社が特許権者となったうえで、実際に発明に携わた従業者等は相当な経済的利益を受けることするのが最も現実的です。

特許法では、会社が特許を取得した場合、その発明に携わった従業者は、「相当の金銭その他の経済的利益」を受けることとされています。

なお、職務発明以外の特許を、あらかじめ会社等の使用者が取得できることを定める契約は、無効となります。

社員が職務と関係ないプライベート等でした発明を、会社が横取りするような横暴は許されないのです。


特許法第35条

1 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ、使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。
4 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。
5 契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。
6 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。
7 相当の利益についての定めがない場合又はその定めたところにより相当の利益を与えることが第五項の規定により不合理であると認められる場合には、第四項の規定により受けるべき相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。


特許出願は面倒で大変

特許出願をするには、何らかの発明をした者、又は、その特許を受ける権利を譲り受けた者が、特許権を得るため、特許庁に対して必要書類を提出します。

特許庁に提出する書類は、願書、明細書、特許請求の範囲、必要な図面、要約書であり、発明の内容が特許庁に正確にわかるような書類が必要です。

願書

願書とは、出願に際して、発明保護を要求する意思表示を行う書面であり、書式が決まっています(36条1項)。

願書には、発明者や特許出願人の氏名等、書誌的事項を記載します。

(特許庁ホームページ)

明細書

明細書には、その特許出願に係る発明の内容を具体的に記載します。

願書で示した発明を、より詳しく、詳細に説明する書類が明細書だと捉えることが出来ます。

明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明の各事項を記載しなければなりません(36条3項)。

「発明の詳細な説明」とは、特許出願に係る発明の内容を開示する明細書の必須記載事項を言います(36条3項3号)。

特許権の付与は新規発明の公開の代償としてなされることから、発明の内容を開示させるために発明の詳細な説明の記載が要求されています。

(知的財産相談・支援ポータルサイト:https://faq.inpit.go.jp/industrial/faq/type.html)

特許請求の範囲

必須の添付書類である「特許請求の範囲」は特許権として保護を求める範囲を特定するために必要な事項を記載するものです(36条2項)。

創作した発明全体のうち、必ずしもすべてに関して特許を受ける必要があるわけではなく、発明全体の中でどの部分に特許を付与したいのかを明確にする書類です。

必要な図面

高度な技術的創作物である発明の内容の理解を助けるためには、発明内容を視覚的に示した図面が必要となることが多いものです。

図面は発明の理解を容易とするために必要な補助的書面として位置づけられており、添付しないことも可能です。

要約書

特許出願をする際に提出する明細書や図面は、膨大な量となることも少なくないため、発明の概要を簡潔に示すものとして「要約書」が必要とされます。

要約書は、もっぱら出願公開の際に技術情報として用いられます。


特許法第36条第1、2項

1 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。

「発明の詳細な説明」が要求するもの

特許出願の際に提出する明細書には「発明の詳細な説明」を記載しなければなりませんが、「発明の詳細な説明」とは具体的にどのようなことを書くべきかが問題となります。

実施可能要件

実施可能要件とは、明細書の「発明の詳細な説明」の欄に当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が、過度の試行錯誤や高度の実験等を行わなくとも、特許請求の範囲に記載されている発明を実施できるように記載しなければならないとする要件です。

その分野のある程度の学識者が、明細書をみて、発明の内容を再現できる必要があるのです。

特許は技術を公開したことの代償として付与されることから、このような要件が課されています。

先行技術文献の開示制度

出願人が出願の際に知っている先行文献の名称その他の関連する情報の所在を発明の詳細な説明に記載することが求められています(36条4項2号)。

技術に技術を積み重ね、より高度で先進的な発明を権利化しようとする特許の性質上、出願している発明に先行する基となる発明が存在することも少なくありません。

そのような先行発明を明示的に記載するは、出願発明の理解や審査の促進に繋がります。

すなわち、出願人の有する先行技術文献情報を出願の際に審査官に開示することによって、出願をより迅速かつ的確に処理することに資するのです。

特許法第36条第3、4項

3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。


「特許請求の範囲」は最重要

特許出願しようとする発明全体の中で、特許権として登録した範囲を明確にする書類が「特許請求の範囲」です。

「特許請求の範囲」の書類を作成するうえで備えなければならない要件を以下で確認しましょう。

発明特定事項は必須構成要件

特許出願人が発明特定の際には、全く不要な事項を記載したり、逆に必要な事項を記載しないことがないようにするしなければなりません。

そのため、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明を特定するための事項を過不足なく記載することが求めまれます(36条5項前段)。

具体的には「【請求項1】○○○○」「【請求項2】○○○○」「【請求項3】○○○○」…のように、請求項ごとに区切って発明内容を指定していきます。

サポート要件

特許出願の際には、発明の詳細な内容を記載した「明細書」を提出することが必要とされますが、「特許請求の範囲」は、「明細書」にの内容に含まれているものである必要があります。

「明細書」の内容の中で、特許として登録したい箇所を請求項ごとに「特許請求の範囲」に記載していくのです。

「明細書」が「特許請求の範囲」をサポートするものであると考えることが出来ます。

明細書と特許請求の範囲

明確性要件

特許は発明者が行った高度な発明を公開し、産業の発展に寄与することを目的としていますが、その代わりに特許権者に独占排他的な権利を付与します。

そのため、公開される特許は、一定の学識を有する人がみて、特許請求の範囲が明確であることが要求されます。

特許請求の範囲の記載は、取得される権利の範囲を画すものであり、それが不明確であると権利の及ぶ範囲も不明確となります。

権利の範囲が不明確であると、保護される権利範囲の予見可能性である法的安定性を害する結果となります。

簡潔性要件

「特許請求の範囲」における請求項ごとの記載は簡潔であることが要求されます。

無意味に長文であったり、回りくどいい表現で、読み手の円滑な理解を妨げる書類が敬遠されるのは、常識的なことです。

特許請求の範囲は、権利を画するという重要な機能があることを考慮すると、迅速に権利範囲を理解できることが重要なのです。

その他の要件

特許請求の範囲は、経済産業省令(特許法施行規則24条の3・24条の4)に定めるところにより記載されなければならないとしています。


特許法第36条第5、6項

5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。

特許法施行規則第24条の2

特許法第三十六条第六項第四号の経済産業省令で定めるところによる特許請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
一 請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載しなければならない。
二 請求項に付す番号は、記載する順序により連続番号としなければならない。
三 請求項の記載における他の請求項の記載の引用は、その請求項に付した番号によりしなければならない。
四 他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、引用する請求項より前に記載してはならない。

特許法施行規則第24条の4

願書に添付すべき特許請求の範囲は、様式第二十九の二により作成しなければならない。

特許における発明の単一性とは

発明の単一性とは、二つ以上の発明について一の願書で出願するにあたって、ニつ以上の発明が満たすべき技術的な関連性を意味します。

技術的に所定の関係を有する複数の発明は、別々に複数の出願とするよりも、一つにまとめて出願する方が、合理的です。

技術的に一定の関連性を有する発明を、できる限り纏めることによって、出願人にとっては、出願手続きが簡易になります。

また、第三者にとっては、関連する発明の情報が効率的に入手可能となり、特許情報の利用や権利の取引が容易となります。

さらに、特許庁にとっては、関連する発明をまとめて効率的に審査することができる利点があります。

まとめて出願した方が効率的だからと言って、まったく関連性のない発明を何でもかんでもまとめて一つで出願すると、関連する発明情報が不明瞭となります。

こうした観点を踏まえ、特許協力条約や多くの主要国の特許法では、一つの出願に複数の発明を包含することを許容する一方、その範囲として、発明の単一性の要件を規則等に規定しています。

何度も同じ作業をするのも面倒ですから、どうせなら一度で全て終わらせた方が、合理的な気がします。

一概に何でもかんでも一色単にするのが合理的だとも限りません。まったく関連性のないものまでごちゃ混ぜにされたら、余計にわかりずらくなっちゃいます。

「同一の技術的特徴」を有することが単一性

二以上の発明が発明の単一性の要件を満たす場合には、二つ以上の発明が一定の技術的関係を有すべきことが要件となります。

この「技術的関係」とは、「二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう(特許法施行規則第25条の8第1項)」とされます。

さらに「二つ以上の発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係」にあるか否かは、これらの発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しているか否かで判断します。

「技術的特徴」は、出願人が発明を特定するために必要な事項として請求項に記載した事項である発明特定事項に基づいて把握します。

例えば、
「出願発明①:AとBとCの技術的特徴を有するスマートフォン
 出願発明②:AとBとDの技術的特徴を有するスマートフォン」
について考えてみましょう。

出願発明①と出願発明②は、「AとB」という同一の特別な技術的特徴を有しています。

その結果、出願発明①と出願発明②は単一性を有する発明とされ、一つの願書でまとめて特許出願できることとなります。

特許法第37条

二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。


特許出願の厳格な方式審査

特許出願等の手続書面が特許庁に提出されると、先ず、提出書面が形式的要件を備えているか否かについて審査がされます。

出願書類としてどのような場合に、どのような書類が必要とされるかは法律で決められています。

必要な出願書類がすべて揃っているか、出願書類に記載しなければならない事項が適切に記載されてるかどうかや、所定の手数料を納付した出願審査請求書であるかどうかなどが審査されるのです。

このような出願が形式要件に合致するかどうかを確認する審査が方式審査とされます。

出願が指定された形式的要件に合致しない不適法な手続である場合、補正ができるかどうかで特許庁の対応が異なってくることになります。

補正をすることができないものについては、手続をした者に弁明書を提出する機会を与えた上で、その手続が却下処分とされます(18条の2)。

例えば、期限が特許法に定められている手続において、期限を経過後に手続が行われた場合がこれに該当します。

補正をすることができる不備がある場合は、手続した者が自発的に補正することができますし、特許庁長官が、補正命令を出すこともできます(17条第3項)。

補正命令に従わないときは、特許庁長官は出願等の手続を却下することができることになっています(18条)。

特許出願をするに際して、定めれた形式的な要件に違反する場合でも、手直しすることが可能であれば、補正する機会が与えられるということですね。

補正できない出願の場合は、もちろん却下されてしまいます。

特許出願が却下される場合

特許出願の審査において、補正できる瑕疵があれば、特許庁長官により補正命令が出されることがありますが、補正命令を受けた者が指定期間内に補正をしない場合には、その特許出願は却下されることになります。

同様に、晴れて特許すべき旨の査定又は審決の謄本の送達を受け、特許が取得できることになっても、30日以内に第1年から第3年までの各年分の特許料を納付しない場合には、手続が却下されてしまう可能性があります。

却下するか否かは、あくまで特許庁長官の裁量権に属するものですので、たとえば、補正指令の指定期間経過後に手続の補正がされても、支障がないと判断されれば、却下することなく補正を認めて手続が続行されることもあります。

また、特許出願人以外の出願審査の請求後、特許請求の範囲についてした補正により請求項の数が増加したときに、特許出願人に追加の出願審査請求料を納付義務が生じます。

この追加の審査請求料を納付しない場合は、補正が命じられますが、それでもその命令に応じない場合、特許庁長官はその特許出願を却下することができるのです。

本来、追加の出願審査請求料を納付しなかった場合、出願審査請求手続自体を却下されます。

しかし、出願人が負担すべき追加の出願審査請求料を納付しないことにより第三者のした出願審査請求手続が却下されるのは適当とは言えません。

そこで、請求項数の増加分の出願審査請求料を納付しないのは出願人にその出願を維持する意思がないものとして出願自体を却下することができるものとしているのです。

もっとも、不適法な手続であってその補正をすることができないものについては、出願人に補正の機会を与えるまでもなく却下処分とされます。

ただし、却下処分前に意見陳述の機会は与えられます。

不適法でかつ補正不能な手続について、特許庁長官は却下以外の方法をとる裁量の余地はありません。


特許出願の手続補完書

特許出願にあたって、特許を受けようとする表示が明確でなかったり、出願人の氏名や名称が記載されていないときや、明細書が添付されていないなどの根本的な要件不備の場合、そもそも特許出願として認定されないことになります。

特許法では、特許出願日として認定されるためには以下の基本的な条件がクリアされている必要性が明記されています。
・特許を受けようとする旨の表示が明確
・特許出願人の氏名若しくは名称が特許出願人を特定できる程度に明確
・明細書の添付

これらの基本的な要件が満たされてない特許出願がなされた際、手続補完書によって、これらの基本的な不備を是正する機会が与えられます。

手続補完を行った場合、特許出願の出願日は手続補完をした時まで繰り下がることになります。

手続補完書を提出し、最低限の特許出願としての要件が整った段階で初めて特許出願として認められ、特許出願日が確定します。

特許法第17条

3 特許庁長官は、次に掲げる場合は、相当の期間を指定して、手続の補正をすべきことを命ずることができる。
一 手続が第七条第一項から第三項まで又は第九条の規定に違反しているとき。
二 手続がこの法律又はこの法律に基づく命令で定める方式に違反しているとき。
三 手続について第百九十五条第一項から第三項までの規定により納付すべき手数料を納付しないとき。

特許法第18条

1 特許庁長官は、第十七条第三項の規定により手続の補正をすべきことを命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないとき、又は特許権の設定の登録を受ける者が第百八条第一項に規定する期間内に特許料を納付しないときは、その手続を却下することができる。
2 特許庁長官は、第十七条第三項の規定により第百九十五条第三項の規定による手数料の納付をすべきことを命じた特許出願人が第十七条第三項の規定により指定した期間内にその手数料の納付をしないときは、当該特許出願を却下することができる。

特許法第18条の2

1 特許庁長官は、不適法な手続であつて、その補正をすることができないものについては、その手続を却下するものとする。ただし、第三十八条の二第一項各号に該当する場合は、この限りでない。
2 前項の規定により却下しようとするときは、手続をした者に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出する機会を与えなければならない。

特許法第38条の2

1  特許庁長官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特許出願に係る願書を提出した日を特許出願の日として認定しなければならない。
一 特許を受けようとする旨の表示が明確でないと認められるとき。
二 特許出願人の氏名若しくは名称の記載がなく、又はその記載が特許出願人を特定できる程度に明確でないと認められるとき。
三 明細書(外国語書面出願にあつては、明細書に記載すべきものとされる事項を第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語で記載した書面。以下この条において同じ。)が添付されていないとき(次条第一項に規定する方法により特許出願をするときを除く。)。
2 特許庁長官は、特許出願が前項各号のいずれかに該当するときは、特許を受けようとする者に対し、特許出願について補完をすることができる旨を通知しなければならない。
3 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、その補完をすることができる。
4 前項の規定により補完をするには、経済産業省令で定めるところにより、手続の補完に係る書面(以下「手続補完書」という。)を提出しなければならない。ただし、同項の規定により明細書について補完をする場合には、手続補完書の提出と同時に明細書を提出しなければならない。
5 第三項の規定により明細書について補完をする場合には、手続補完書の提出と同時に第三十六条第二項の必要な図面(外国語書面出願にあつては、必要な図面でこれに含まれる説明を第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語で記載したもの。以下この条において同じ。)を提出することができる。
6 第二項の規定による通知を受けた者が第三項に規定する期間内にその補完をしたときは、その特許出願は、手続補完書を提出した時にしたものとみなす。この場合において、特許庁長官は、手続補完書を提出した日を特許出願の日として認定するものとする。
7 第四項ただし書の規定により提出された明細書は願書に添付して提出したものと、第五項の規定により提出された図面は願書に添付して提出したものとみなす。
8 特許庁長官は、第二項の規定による通知を受けた者が第三項に規定する期間内にその補完をしないときは、その特許出願を却下することができる。
9 特許を受けようとする者が第二項の規定による通知を受ける前に、その通知を受けた場合に執るべき手続を執つたときは、経済産業省令で定める場合を除き、当該手続は、その通知を受けたことにより執つた手続とみなす。

特許の外国語書面出願

外国語書面出願とは、外国語により作成された明細書、特許請求の範囲、必要な図面、及び要約書を、願書(日本語により作成)に添付して行う特許出願です。

特許協力条約(PCT)の国際出願が外国語で行われた場合、我が国ではその国際出願のことを「外国語特許出願」と呼びますが、「外国語書面出願」は「外国語特許出願」とは異なります。

外国語書面出願制度が新設される前まで、外国人が我が国に特許出願を行う場合は、通常、外国語により行った第一国出願に基づきパリ条約の主張を優先し、願書に日本語に翻訳した明細書等を添付することにより行っていました。

しかし、①パリ優先権が主張できる一年の期間が切れる直前に特許出願をせざるを得ない場合には、短期間に翻訳文を作成する必要が生じることに加え、②願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていない事項を出願後に補正により追加することは認められないため、外国語を日本語に翻訳する過程で誤訳があった場合には、外国語による記載内容をもとにその誤訳を訂正することができないなど、発明の適切な保護が図れない場合がありました。

こうした問題点を解決するため、外国語書面出願制度が設けられています。

外国語書面出願をする際に必要となる「外国語書面」とは、外国語で作成した明細書、特許請求の範囲及び図面のことです。


外国語書面出願の翻訳文提出期間

我が国においては、特許権は日本語により発生させる必要があることから、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を「その特許出願の日から1年4月以内に」提出しなければなりません。

優先権主張を伴う外国語書面出願の場合には、優先権主張の基礎とした出願の日のうち最先の日を「特許出願の日」として、1年4月をカウントします。

また分割出願、変更出願及び実用新案登録に基づく特許出願においては、出願日がもとの出願時に遡及するため、もとの出願から1年4月を経過してしまっても、新たな出願から2月以内であれば、翻訳文を提出できます。


外国語書面出願の取下擬制

外国語書面のうち明細書と特許請求の範囲の翻訳文の提出が無かった場合には、特許出願は取下したものとみなされます。

図面について翻訳文が提出されなかった場合でも、そもそも願書に図面を添付しないことも認められているため、出願が取下げとみなされることはありません。

また、外国語要約書面について翻訳文が提出されなかった場合は、技術情報としての利用に供することができるよう出願人に補正を命じれば足りるため、この場合も出願の取下げとはみなしません。

また翻訳文が提出できなかっとことに「正当な理由」がある場合は、「経済産業省令で定める期間」である「正当な理由がなくなつた日から2月」の期間に限り翻訳文の提出が認められます(特許法施行規則25条の7第5項)。

特許法第36条の2

1 特許を受けようとする者は、前条第二項の明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書に代えて、同条第三項から第六項までの規定により明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)並びに同条第七項の規定により要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)を願書に添付することができる。
3 特許庁長官は、前項本文に規定する期間(同項ただし書の規定により外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出することができるときは、同項ただし書に規定する期間。以下この条において同じ。)内に同項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかつたときは、外国語書面出願の出願人に対し、その旨を通知しなければならない。
4 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
5 前項に規定する期間内に外国語書面(図面を除く。)の第二項に規定する翻訳文の提出がなかつたときは、その特許出願は、同項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたものとみなす。
6 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第四項に規定する期間内に当該翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
7 第四項又は前項の規定により提出された翻訳文は、第二項本文に規定する期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
8 第二項に規定する外国語書面の翻訳文は前条第二項の規定により願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面と、第二項に規定する外国語要約書面の翻訳文は同条第二項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす。


正誤判定問題
特許法第36条の2に規定する外国語書面出願を行う場合、願書、明細書、特許請求の範囲、必要な図面、及び要約書のいずれも経済産業省令で定める外国語で記載した書面とすることができる。

解答:×

外国語書面出願であっても、願書は通常の日本語出願と同様に、日本語で作成された願書を提出します。

正誤判定問題
特許法第36条の2に規定する外国語書面出願の出願人は、その特許出願の日から1年4月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。

解答:○

特許法第36条の2第2項は、「前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願の出願人は、その特許出願の日から一年四月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。」としています。

正誤判定問題
特許法第36条の2に規定する外国語書面出願の出願人が、出願から1年4月を経過しても外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかったときは、審査官は、出願人に対し、その旨を通知しなければならない。

解答:×

特許法第36条の2第3項は、「特許庁長官は、前項本文に規定する期間内に同項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかつたときは、外国語書面出願の出願人に対し、その旨を通知しなければならない。」としていて、審査官ではなく、特許庁長官が正しいです。

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